ランニングシューズを選ぶとき、「反発が強い」「よく跳ねる」という言葉に魅力を感じる人は多いと思います。
実際、反発のあるシューズを履いて走ると、足が前に出やすく、リズムよく走れるような感覚があります。しかし、実際にバウンス系のシューズを使ってみると、ミッドソールを大きく変形させ、そこから生まれる反発力を利用することを重視したシューズだからといって、必ずしも楽に速く走れるわけではありません。
今回は、バウンス系シューズとしてヴェロシティ ニトロ4とノヴァブラスト5を中心に、反発性のあるミッドソールがどのような特徴を持っているのか、また、なぜ「走りやすい」と感じるシューズが、必ずしも自分にとって最適なシューズとは限らないのかについて考えてみたいと思います。
バウンス系シューズとは――厚底化から生まれた新しい選択肢
エリートランナー向けのマラソンシューズは、厚底シューズが登場するまでは、薄いミッドソールを採用した軽量なシューズが主流でした。
しかし、ナイキのヴェイパーフライをはじめとするカーボンプレート搭載の厚底レーシングシューズが登場すると、その考え方は大きく変わりました。
カーボンプレートの強い反発力を利用するため、ミッドソールを厚く、柔らかくすることで着地時に大きく変形させ、着地時のエネルギーをカーボンプレートに集中させることで、次の一歩への推進力として利用する設計が広がりました。


また、厚底でありながら軽量で、なおかつ高い反発性を持つシューズはエリートランナ向けに限られていました。しかし、高機能なミッドソール素材が次々と開発されることで状況が変わってきました。
カーボンプレートを搭載しなくても、ミッドソールそのものに高い反発性を持たせることで、厚底シューズとして十分なクッション性と反発感を得られるようになったのです。
こうして、カーボンプレートを搭載したレーシングシューズとは別の方向から、厚底・高反発のランニングシューズが広がっていきました。
これが、いわゆる「バウンス系」と呼ばれるシューズです。
今回取り上げるヴェロシティ ニトロ4やノヴァブラスト5も、この流れにあるシューズとして考えることができます。
バウンス系シューズの特徴
バウンス系シューズの大きな特徴は、ミッドソールそのものが荷重によって変形し、そこから元の状態へ戻ろうとする力を利用することです。
着地するとミッドソールが沈み込み、そこから戻ってくる。
この動きによって、着地時の衝撃を単純に受け止めるだけではなく、次の一歩につながる反発感を得ることができます。
そのため、走っていると「シューズが足を押し返してくれる」「足が自然に戻ってくる」と感じやすくなります。
この感覚が、バウンス系シューズの大きな魅力です。
また、高機能なミッドソール素材の進化によって、クッション性を確保しながら軽量化されたシューズも増えています。
以前は「クッション性が高い=重い」という傾向がありましたが、現在はクッション性、反発性、軽量性を同時に求められるようになっています。
カーボンプレート搭載シューズとの違い
軽さと構造のシンプルさがバウンス系の強み
カーボンプレートやロッドを搭載したシューズと比較すると、バウンス系シューズは軽量化しやすいという特徴があります。


エリート向けのマラソンシューズを除くと、カーボン素材を搭載することで、片足あたり20g以上重くなるケースも多くあります。230~280g程度のシューズに20g加わると、数字以上に重さを感じることがあります。
また、カーボンプレートやロッドをミッドソールの内部に組み込むため、ミッドソールはプレートを挟む構造となり、設計上の制約も増えます。
一方、バウンス系シューズは、ミッドソールそのものの反発性を利用するため、プレートやロッドを挟む必要がありません。ミッドソールの形状や厚みを比較的自由に設計でき、構造をシンプルにすることで軽量化を図ることができます。
こうした構造上の違いは価格にも影響します。カーボン素材を使用するシューズに比べて製造面での負担を抑えやすいため、バウンス系シューズは価格面でも競争力を持ちやすいといえます。
弱点は、ミッドソールに必要なボリューム
一方で、バウンス系シューズには弱点もあります。
ミッドソールそのものを大きく変形させて反発力を生み出すため、十分なクッション性と耐久性を確保するには、ミッドソールにある程度のボリュームが必要になります。
つまり、構造をシンプルにして軽量化できる一方で、反発性を確保するためにミッドソールそのものを厚く、大きくする必要がある。プレートを使わないことで自由度が高くなる一方、ミッドソールのボリュームが必要になるというのが、バウンス系シューズの特徴のひとつです。
バウンス系シューズは「走りやすい」と感じやすい
バウンス系シューズを履いて最初に感じるのは、やはりその走りやすさです。
着地するとミッドソールが沈み込み、その後に戻ってくる。
この動きによって、着地から次の一歩への移行がスムーズに感じられます。
特にヴェロシティ ニトロ4やノヴァブラスト5のようなシューズでは、着地時のクッション性だけでなく、そこから戻ってくる反発感も感じやすく、リズムよく走ることができます。
また、クッション性が高いため、着地時の衝撃が足の一部分に集中しにくく、走っているときに足元の細かな動きを意識する必要も少なくなります。
そのため、力を抜いてリラックスして走りやすいというメリットがあります。
しかし、ここで注意したいのが、「走りやすい」と「速く走れる」は同じではないということです。
ヴェロシティ ニトロ4とノヴァブラスト5で感じるバウンス感
今回、バウンス系シューズとして中心に取り上げたいのが、ヴェロシティ ニトロ4とノヴァブラスト5です。
どちらもクッション性を備えながら、着地したときにミッドソールが沈み、そこから戻ってくる感覚があります。

この「沈んで、戻る」という動きが、バウンス系シューズの特徴です。
着地した瞬間にミッドソールが衝撃を受け止め、その後に戻ってくる。
その戻りを次の一歩につなげることができると、足を運ぶリズムが作りやすくなります。
特に、ある程度一定のリズムで走っていると、ミッドソールの反発が次の一歩につながるような感覚があります。
これが、バウンス系シューズを「走りやすい」と感じる大きな理由だと思います。
「反発が強い=速く走れる」ではない
バウンス系シューズでは、ミッドソールが着地時に変形し、そこから元に戻ることで反発感が生まれます。このとき、着地時に受けたエネルギーのすべてが、そのまま前へ進む推進力になるわけではありません。
自分の走りとシューズの動きがうまく合っていれば、反発を次の一歩につなげることができます。
しかし、シューズの反発と自分の足の運びが合っていなければ、反発のすべてを推進力として利用することはできません。
その場合、シューズのミッドソールが受けた動きの一部を、身体側でも受け止めることになります。
つまり、反発の感覚が強いからといって、それだけで速く走れるわけではないのです。
むしろ重要なのは、自分の着地やピッチ、足の運びと、ミッドソールが戻ってくるタイミングが合っているかどうかです。
反発が自分の走りと合っているときは非常に気持ちよく走れます。
一方で、疲れて着地が重くなったり、ピッチが落ちたりすると、ミッドソールの沈み込みと反発を身体側で処理しているような感覚が出てくることがあります。
最初の履き心地だけでは、シューズは判断できない
バウンス系シューズを実際に足入れすると、多くの人は、これまで使用してきたシューズと比べてクッション性が高いと感じると思います。
さらに、店員さんから「いいシューズですよ」と説明されると、その印象はより強くなり、「これは良いシューズだ」と受け取りやすくなります。
しかし、最初の足入れで確認できるのは、主にフィット感や足当たりです。立った状態で感じる柔らかさやクッション性だけでは、そのシューズの良し悪しを判断することは難しいのです。
クッション性を重視したシューズであれば、着地時の衝撃を和らげることが主な役割になるため、足入れしたときのクッション感から受ける印象と、実際に走ったときの感覚に大きな差が出にくい場合があります。
一方、バウンス系シューズは、ミッドソールの沈み込みと、そこから戻ってくる反発を利用して走ることが特徴です。そのため、シューズの性能をしっかり発揮させるには、走るリズムとの相性に少し注意が必要です。
一般的に、ランニング時には着地の瞬間に体重の約3倍の荷重がかかると言われています。実際に走り始めると、立っているときとはミッドソールの沈み込みや反発の仕方が大きく変わります。
そのため、そのシューズが自分の走りに合っているかどうかは、実際に走ってみなければ判断できません。
特にバウンス系シューズは、ミッドソールの反発に合わせて走ることで、その性能を活かしやすくなります。着地から反発、そして次の一歩へというシューズの動きに、自分のピッチや足の運びを合わせることができれば、非常に走りやすいシューズになります。
一方で、シューズの反発に合わせて走ることができなければ、反発を十分に推進力として利用できないこともあります。その場合、ミッドソールの沈み込みや反発を身体側で受け止めることになり、結果として余計な体力を使うことにもつながります。
つまり、シューズそのものの性能だけでなく、ランナーがそのシューズの特性に合わせて走れるかどうかも、相性を左右する重要な要素になります。
だからこそ、店頭で「柔らかい」「クッション性が高い」「履き心地がいい」と感じただけでは、そのシューズが自分に合っているかどうかは分かりません。
実際に走ってみて、シューズの反発を自然に利用できるのか。それとも、シューズの動きを身体側で受け止める感覚が強くなるのか。
そこまで確認して初めて、自分にとって良いシューズなのかを判断できます。
バウンス系シューズの良さは「クッション+反発」
ここまで書いてきたように、バウンス系シューズには明確なメリットがあります。
まず、クッション性が高いため、着地時の衝撃を緩和しやすいこと。
そして、ミッドソールが変形して戻ることで、着地から次の一歩へ移るときに反発感を得られること。
さらに、現在の高機能なミッドソール素材は、厚底でありながら軽量化も進んでいます。
そのため、「クッション性があるのに軽く、しかも反発感がある」という、以前では両立が難しかった特徴を持つシューズが増えています。
ヴェロシティ ニトロ4やノヴァブラスト5を履くと、この進化を実感しやすいと思います。
ただし、その性能を最大限に活かせるかどうかはランナーによって変わります。
柔らかさや反発感を気持ちよく感じる人もいれば、ミッドソールの沈み込みが大きいことで、かえって足元の動きが合わないと感じる人もいます。
反発を利用できるシューズを選ぶ
バウンス系シューズは、高機能なミッドソール素材の進化によって生まれた、現在の厚底ランニングシューズを代表するカテゴリーのひとつです。
カーボンプレートやロッドを使わなくても、ミッドソールそのものに高い反発性を持たせることで、クッション性と反発性を両立できるようになりました。
ヴェロシティ ニトロ4やノヴァブラスト5は、その特徴を分かりやすく感じられるシューズです。
ただし、ここで注意したいのは、ミッドソールが大きく変形し、元の形に戻ろうとする力が強いからといって、速く走れるわけではないということです。
ミッドソールが受けたエネルギーを、すべて推進力として利用できるわけではありません。
自分の着地やピッチ、足の運びと、ミッドソールが変形して戻るタイミングがうまく合っていれば、その反発を利用して気持ちよく走ることができます。
一方で、シューズの動きと自分の走りが合っていなければ、その動きの一部を身体側で受け止めることになり、結果として疲労につながる場合もあります。
だからこそ、ランニングシューズを選ぶときには、店頭で履いた瞬間の「柔らかい」「気持ちいい」「よく跳ねる」といった感触も判断材料になります。ただし、それだけでは、実際に走ったときのシューズとの相性まで判断することはできません。
実際に走って、距離を重ね、疲労してきたときにどう感じるのか。そして、そのシューズのミッドソールが変形して戻る動きを、自分が自然に推進力として利用できているのか。
ここまで確認して初めて、そのシューズが自分に合っているかどうかが見えてきます。
バウンス系シューズは、ミッドソールが大きく変形して戻るから良いのではありません。
自分の走りに、その動きが合っているから良い。
これが、ヴェロシティ ニトロ4やノヴァブラスト5を実際に使用して、あらためて感じたことです。
ミッドソール硬度から見る変形のしやすさ
バウンス系シューズを実際に走ってみて、「ミッドソールの変形が大きい」「着地時に沈み込みが大きい」「反発をうまく利用できない」と感じる場合は、もう少し変形量の小さいミッドソールを採用したシューズを試してみるのもひとつの方法です。
実際にミッドソールの硬さを測定してみると、硬さの数値が40未満となるものは、かなり変形しやすい部類に入ります。こうしたミッドソールは、着地時に大きく変形することで反発を生み出しますが、その動きをランナー側でうまく利用できなければ、ミッドソールの変形を身体で受け止めることになります。


ミッドソールの変形が大きいと感じたら――少し硬めのシューズを試してみる
ノヴァブラスト5やヴェロシティ ニトロ4を実際に走ってみて、ミッドソールの変形が大きく、自分の走りには合わないと感じる場合は、少し変形しにくいミッドソールを採用したシューズに変えてみるのもひとつの方法です。
今回、ミッドソールの硬さを測定したところ、ノヴァブラスト5やヴェロシティ ニトロ4よりも硬さの数値が高く、比較的変形しにくいシューズとして、ボメロ18、Adizero EVOSL、エボライドスピード3があります。
① ボメロ18――ミッドソールを左右に広げて強度を確保
ボメロ18のミッドソールの硬さは45。
特徴的なのは、ミッドソールがシューズの左右方向に大きく張り出した形状になっていることです。
ミッドソールの幅を確保することで、着地時にミッドソールが大きく変形するのを抑え、シューズ全体の強度を確保しています。
単純にミッドソール素材を硬くするだけではなく、形状によって変形を抑えている点が特徴です。
② Adizero EVOSL――面で受けることで沈み込みを抑える
Adizero EVOSLのミッドソールの硬さは40。
数値としてはノヴァブラスト5やヴェロシティ ニトロ4と大きく離れているわけではありませんが、ミッドソールの形状に特徴があります。
ミッドソールが比較的平面的な形状になっており、前足部からヒール部分まで広い面で接地する設計です。
そのため、着地時の荷重が一部分に集中しにくく、ミッドソールが局所的に大きく沈み込むことを抑えています。
素材そのものの硬さだけではなく、ミッドソールの形状によって変形量を抑えているシューズといえます。
③ エボライドスピード3――硬めのミッドソールとアウトソール形状
エボライドスピード3のミッドソールの硬さは43。
ミッドソールには旧作のFF BLAST+を採用しており、現在の高反発系ミッドソールと比較すると、やや硬めの特性を持っています。
さらに特徴的なのがアウトソールの形状です。
アウトソールには大きな突起がなく、ディンプル状の構造を採用しています。この形状も、ミッドソールが着地時に大きく変形するのを抑えることに貢献しています。
素材そのものの硬さに加えて、アウトソールの構造によっても変形しにくい設計になっている点が特徴です。
3足に共通するのは「変形を抑える」という考え方
この3足は、それぞれ方法は異なりますが、ノヴァブラスト5やヴェロシティ ニトロ4のようなバウンス系シューズと比較して、ミッドソールの変形を抑える方向の設計になっています。
ボメロ18はミッドソールを左右に張り出すことで強度を確保し、Adizero EVOSLは広い面で荷重を受けることで沈み込みを抑え、エボライドスピード3は硬めのミッドソールとアウトソール形状によって変形を抑えています。
バウンス系シューズを走ってみて、ミッドソールの変形が大きいことが自分の走りに合わないと感じた場合は、このように「少し変形しにくいシューズ」に変えてみることで、走りやすさが変わる可能性があります。
シューズ選びでは、単純に「柔らかい・硬い」だけを見るのではなく、着地したときにミッドソールがどのように変形するのか、その変形を自分がどう受け止めるのかを見ることも重要です。

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